アンダラクリスタル オパール 「くるみの木と魔女の見習い」

アンダラクリスタル オパール 「くるみの木と魔女の見習い」

魔法使いの見習いの少女がいました。名前はエルナ。彼女は15歳の夏、魔女であるお母さんの元を離れ、とても有名な魔女のもとへ弟子入りしました。

それから2年、エルナは寝る間も惜しんで魔法の勉強をしてきました。お母さんのような、美しい魔法を生み出し、たくさんの人を幸せにすることが、エルナの夢でした。エルナのお母さんは植物を使って、心に灯りをともすような魔法を作ります。
病気を治す薬を作る魔女はたくさんいますが、お母さんの魔法は、気分が落ち込んだ時に前向きな気持ちを運んだり、新しいことを始める時に小さな勇気をくれるような、優しい火がふわりと胸にともる、まるで妖精の魔法のようでした。エルナは本当はお母さんに魔法を教わりたかったけれど、魔法使いたちの間にはこんな決まりがありました。

「最初はまったく別の魔法を使う人から学ぶこと」

それは視野を広げ、多様な魔法の世界を知るためでした。エルナの師匠となった魔女は、優しいおばあさんのような人で、身体を癒す薬の魔法の他に、空を飛ぶ魔法、五感を鋭くする魔法、さらには水路や建物を作る魔法まで、多くの生活に役立つ魔法を知っていました。彼女のもとには他にも弟子たちがいて、エルナは温かい仲間に囲まれながら、この場所で修行できることに深い幸せを感じていました。

やがて3年目に入った頃、卒業の課題が出されました。それは、「自分でまったく新しい魔法を作ること」。弟子たちは目を輝かせて取り組みはじめました。けれど、エルナには何も浮かびません。

「何が正解なの? 何を使って、どうやって? 私にできる魔法って何?」

彼女は本を読み漁り、仲間や先生に聞き回り、遠くのお母さんにも手紙を書きました。でも誰の言葉も、自分の中にぴたりとはまることはありませんでした。誰かの正解は、自分の正解じゃない。けれど、自分の正解もわからない。迷いの霧の中で、数ヶ月が過ぎました。

そんなある日、村がざわついていました。「村のシンボルの胡桃の木が枯れそうだ」と。
その胡桃の木は、大きくて立派で、毎年たくさんの実を実らせていました。その実は特別で、殻を割ると中は淡いオパール色に輝いていて、食べるとお肌がつややかになり、体の疲れがすーっと抜けていくと言われていました。

木は徐々に弱り、キノコが根元に生え、虫がつき始めていました。村の人々も、木のお医者さんたちも、なんとか元気を取り戻そうと奮闘していました。エルナもできることはないかと本を調べ、薬草を探し、魔法を試しました。けれど、木は静かに、少しずつ、力を手放していきました。
ある夜、月が優しく照らす中、エルナは一人、胡桃の木の根元に座りました。手でそっと幹に触れて、心の奥でこう願いました。

「助けたい。何かできることがあるなら…」

その瞬間、木の奥から、ふんわりとした声が心に響いてきたのです。

「いいえ。私はもうここで終わるのです。この体が終わったとしても、私の子どもたちが生き続けるでしょう。私は大丈夫。私はずっと、この村にいますよ。」

エルナは、はっとして木の周りを見渡しました。そこには小さな芽がいくつも伸びていて、柔らかな葉が風に揺れていました。まるで、木自身が静かにバトンを渡そうとしているようでした。
魔法とは、こういうことなのかもしれない。学んだ知識だけではなく、心で感じるもの。自然と、命と、魂と、深くつながること。自らの中で湧き上がるもの・・・
エルナはその木が人々の願いとは別に、自分の意志を持ちその願いに忠実に生きているのを感じました。エルナは知ったのです。魔法は自分の奥底の願いを信じる力なんだ。魔法は学ぶだけではない、自分の力を知って、感じて、そしてそれを信じることなんだ。

エルナは、胡桃の木の根元にそっと手を置いたまま、しばらく静かに目を閉じていました。風が吹き、葉の揺れる音が、どこか懐かしい子守唄のように聴こえます。エルナの胸の奥から、あたたかい光がにじむように広がっていきました。それは魔法でもあり、祈りでもあり、ただ「心から信じる」という、純粋な力でした。

「私、あなたのようになりたいな。どんな時も、自分の命を信じて、愛をもって生きていけるような……そんな魔法を作りたい」

そうつぶやいた瞬間、木の枝が風に揺れ、ひとひらの葉がエルナの膝に落ちてきました。それはまるで、「それでいいのよ」と語りかけてくれるようでした。それは、言われたことをただこなしていた自分から、作りたい魔法を自ら探し当てた瞬間でした。
翌朝、村の人々が集まる中、エルナは静かに木の前に立ちました。

「この木は、命を終えようとしているのではありません。未来のために、次の命を託しているのです。だから……私たちも、その願いを信じて、見守りましょう。」

人々は驚きながらも、静かにうなずきました。

数日後、村の広場には、やわらかな朝の光と、胡桃の木の香りが満ちていました。エルナは、木の根元に小さな台を置き、薬草と胡桃の葉、そして月のしずくを混ぜた光る液体を、小さな瓶に分けて並べていました。
集まってきた村の人々に、エルナは静かに語りかけます。

「これは薬でも、誰かの願いを叶えるものでもありません。でもね、これを受け取ったとき、きっと“あなたの中の光”が、そっと目を覚ますんです。これは……私の初めての魔法。“心の種をひらく魔法”です」

そう言って、ひとりひとりの手のひらに小さな瓶を渡していくエルナの手には、ほのかにあたたかい光が宿っていました。それは、胡桃の木の魔法と、エルナの想いが重なって生まれた“光の種”──ルミエル。それを胸にそっと当てた人々は、不思議と深呼吸をしていました。

その日すぐに何かが変わったわけではない。
けれど──
数日後、ある人は埃をかぶっていた絵筆を手に取りもう何年もできなかった絵を描き始め、ある人は仲直りできなかった人に手紙を書き、ずっと伝えられなかった「ごめんね」を綴り、そしてある人は、自分の夢をもう一度思い出し、ずっと心に秘めていた夢に向かって一歩踏み出しました。

それは奇跡でも奇術でもない。けれど確かに、“心の奥の何か”がふわりと動いた魔法でした。そんな村の様子を、エルナの師匠の魔女は、遠くから見つめて微笑みました。

「エルナ……あなたの魔法は、“何かを変える”んじゃないのね。でも、それが一番深く、人を動かすのかもしれないわ。あなたは、“目覚めの魔女”。魂の奥に灯をともす人だわ」

そして胡桃の木は、やさしい風に枝を揺らし、まるで「よくやったね」と言うように、キラリと一粒、光る実を落としました。
それは、エルナの“魂の魔法”のはじまりだったのです。

【魔法No.2917:ルミエルの種】
分類:目覚めの魔法
創始者:エルナ(薬草と光の魔女)
効果:受け取った者の心の奥にある「信じる光」をそっと目覚めさせる
補足:発動には“真心”と“静かな祈り”が必要。使用後すぐに効果が現れることは少ないが、時間をかけて芽吹く力を持つ。
記録より:
“この魔法は、世界を変える人の心を動かす魔法である。”
~『精霊と魔女の魔法図鑑・第14巻』より

アンダラクリスタル オパール

今回は「石」と「絵」のセット販売です。「絵」と一緒に「石」もお届け致します。

  • 石サイズ:4×2cm
  • 店:Maura
  • 絵サイズ:6×8cm
  • 額サイズ:10.5×12.5cm
  • 43,500円(税込・送料・額代込)

       

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